最高級品はハンドメイド

　４０年以上の編み物歴ですから、へたくそではありません。かといって、趣味の域のままです。私は元来、趣味が実益となろうはずがないと考えています。労働とは額に汗して頑張るもの。そうして幾ばくかの報酬を糧に生きていかねば。なんていう思想がこびりついているものですから、私には仕事は辛い物、辛くて当たり前なので、せっかく好きでやっていることが仕事になんかなったら大変。とんでもない損失と思ってしまうのです。

長い経験ですから、編み物を指導したことは何度かあります。私が指導するのですから、既成のテキストやプログラムはありません。私流です。男子が身に付けることを前提に指導するので、繊細な女性や子供向に多用されるかぎ編みありません。棒編みです。私流は、いきなりチルデンベストを編ませます。総ゴム編みマフラーではありません。男は概して、女性より気が短いのが常ですから、成果が重要なんです。自分で着ることのできる物が出来上がる喜びは病みつきになるのです。かといって、長袖のセーターは厳しいので、編む量が少ないベストがベストなんちゃって。（ちょっと恥ずかしい。）

　ベストは夏でも、例えば、Ｔシャツの上に付けてテニスコートのベンチではカッコいいです。寒い日は、ジャケットの中にも使えます。なにより、この一着を編むことにより、ニット技法の殆ど全てを体験できるので、教材としては最高です。

　編み物は人生の波乱の縮小のような、編み手は哲人になれます。女性は多分、違うでしょうね。男は、失敗に気づいたら、「エイ！」と解くことができるんです。女性はくじけて、去年のやらその前のやらが、どこかにしまい込まれていませんか。私の偏見かな。　　

　さて、編もうとしたときから出来上がりまでの間に乗り越えなければならない波乱が何度かあります。順番にあげてみましょうか。先ず、ゲージ。大きなゲージ編みの方が正確な作品に通じますが、労力のムダ感がどうしても起こりますよね。

　編み初め。ここでも実に悩ましい。裾ゴム編みと本体をつないで作ろうか、エンドから編んで行って、本体へ。ループ編みか、リターン編みか。はたまた、作り目は別糸から出すか、直で行くか。出来上がり重視でやるなら、別糸作り目ループ。しかし、その別糸すら面倒。可能なら、労力のすべてが作品の一部を構成して欲しい。だから直でやろう。でも、高いスキルが必要。リターンはハギ作業が別な工程で必要ですから、選択はループだけれど、だんだん重くなる。自宅の居間で座って編むならこれでもいいけれど、出先の合間もやりたい。となるとパーツだけの方が可搬性がいいのでリターンかな。とか、何のとか。哲学ですなー。